今回の通勤電車内読書は、メグ・ガーディナー著「裏切りの峡谷」(集英社文庫)。
2年前に読んだ前作「チャイナ・レイク」が良かった記憶があり、期待して手に取ったが、期待に違わぬ出来だった。
前作同様、主人公は弁護士資格を持つSF作家のエヴァン・ディレイニー。今回は、彼女の恋人で車椅子の弁護士ジェシー・ブラックバーンの過去が作品の柱となっている。
3年前、山道をマウンテンバイクでトレーニングしていたジェシーと友人のアイザックの二人をひき逃げし、海外に逃亡していた情報セキュリティ会社重役のフランクリン・ブランドが、エヴァンとジェシーの住む街に舞い戻ってきた。
その時の事故でアイザックは死亡し、ジェシーは車椅子が欠かせない身体になっていたのだ。
アイザックの兄アダムとブランドの動向を追うジェシーとエヴァン。
アイザックの遺品を整理していたアダムは、弟の残した不審なメモを発見し、ブランドのいた会社が関わる不正が次第に明らかになってくるが、それと同時に3人の身辺にも危険な人物達が姿を見せ始め、新たな殺人が発生する。
やがてその魔の手はエヴァンにも迫ろうとするが、意外な助っ人が現れて、3年前と現在を繋ぐ真犯人の姿が明らかになって行く。
情報セキュリティとマネーロンダリングを縦糸に、障害を抱えつつ懸命に生きるジェシーと彼を助けようとするエヴァンの関係を横糸にしつつ、様々な人物達の生き様が織り込まれ、見事な作品に織り上がっている。
スリルとサスペンス溢れるプロットだけではなく、エヴァンの自分への態度が愛か同情かで迷うジェシーと、彼の迷いを敏感に察し悩みつつ、それでも一途に彼を愛し、暴走気味に突っ走るエヴァンという二人のロマンもまた良い。
エドガー賞受賞の前作より更に進化し、テンポ良く読める傑作ページターナー。☆☆☆☆☆。