昨年12月にジャック・アタリの『食の歴史―人類はこれまで何を食べてきたのか』を読んでとても感銘を受けたので、その前著となる『海の歴史』(プレジデント社)をkindle版でダウンロードし、通勤電車の中で少しずつ読み進めました。
本書は、地球の表面積の約70%を占める海と人類との関わりを、生命の誕生の頃から現在までの長い時間軸の中で書き起こした労作です。
太古の時代から、国家の興亡の陰には必ず海との関わりがあり、大量輸送手段を確保する上で、制海権を握る者が戦いに勝利してきたことを、歴史を紐解きながら解説していきます。
一見、海とは関係なさそうなアメリカ南北戦争の北軍の勝利にも、実は海が関係していたというあたりは、なるほどなと首肯するばかり。
フランスの政界にも強いつながりを持つ著者だけに、歴史の節目節目で、フランスがこうしていたら覇権を握れたのに、みたいな記述がたびたび出てきますが、それも愛国心の発露でご愛敬。
今や海は、輸送手段だけではなく、資源の確保という点でも無視できない存在であり、中国がなぜ一帯一路政策を遮二無二推し進めようとしているのかも、この本を読むとよく理解できます。
最後は、環境汚染や乱獲などによる水産資源の減少の問題にも触れ、海との関わり方について人類に警鐘を鳴らしています。
我が祖(と勝手に思っている)天津日高日子穂々手見命(山幸彦)も、海を味方につけることで覇権を握った訳ですし、海の民の末裔として、大変面白く読みました。
歴史の部分には退屈さを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、示唆に富んだ好著ですので、未読の方は是非手に取っていただければと思います。☆☆☆☆1/2。