『魚が食べられなくなる日』

先日、浦安の家に戻った際に、往復の飛行機の中で読んだのが、勝川俊雄著『魚が食べられなくなる日』(小学館新書)

今の職場がもろ水産業関係なので、毎朝の新聞チェックの時に本書の紹介を目にして、読んでおくべき本だろうと思った次第。

気鋭の水産学者である著者が前書きで書いているように、本書は、
「『水産に関するグラフを描いてみるとすべてが右肩下がり。上がっているのは漁業者の年齢だけ』という状態を打破するには、海外の成功事例から学び、これまでの日本農業のルール、仕組みを変えていくしかありません。そのための道筋を示しました。」
という内容。

日本の漁業、水産資源の現状について、データ、グラフに基づいてわかりやすく解説し、漁業復活の成功事例であるノルウェーでは、
(1) 個別漁獲割当方式の導入
(2) 世代交代を促進するSQS(Structural Quota System)方式の導入
(3) 補助金の削減と水産業の自立
という3つの政策が効果的であったと紹介。

そこから日本の水産業が復活するために採るべき政策としては、
科学・研究機関(水研機構)を水産庁から切り離すことによって、バイアスのかからない正確な科学的データに基づいて水産資源の実態を管理し、日本独自の個別漁獲割当制度を導入し、漁獲枠の譲渡ルール(ITQ、Individual Transferable Quota)を定めることとしています。

我先に早い者勝ちで根こそぎ獲りに行くのをやめて、質を高めるような効率的な獲り方に移行しましょうという訳ですね。
その方が、操業コストが下がり、労働生産性は上がるはずです。

「日本独自の個別漁獲割当制度」とは、魚種をある程度限定したTAC(Total Allowable Catch=総漁獲枠)とIQ(Individual Quota = 個別漁獲割当量)の導入と、国防面にも配慮した離島特別漁獲枠の設定で、特に後者に日本らしい事情があります。

個別漁獲割当制度の導入については、第三者的に水産業を眺めている立場からすると、確かにそうあるべきだろうと納得できるのですが、それらの主張はもう10年来言われ続けているにも関わらず、なかなか現実のものとならない現状を見ると、その困難さも容易に予測できます。

そのあたりは、本書の端々にも透けて見えて、水産庁を中心とする日本の水産行政が、いかに惨憺たるものなのか、改革を阻む、政治家と官僚と業界という「三すくみ構造」についても触れられています。
普段から政治の世界に振り回されている研究者の恨み辛みも込められているので、ある程度割り引いて読む必要はあるかも知れませんが、大きな構造は、確かにその通りだと思えます。

こうした現状を変えるには、関係者の自覚とともに、消費者サイドからの食の持続性に対する要求が必要で、そのために本書のようなわかりやすい解説本の存在意義があるのでしょう。

読みやすく面白い本ですので、水産関係者に限らず、魚好きなら、ご一読をお薦めします。

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