今回の通勤電車内読書は、近藤史恵著「サヴァイヴ」(新潮社)。
「サクリファイス」、「エデン」に続くシリーズ三作目だが、前二つの物語の前後を描く連作短編集となっている。
6つの短編のうち、最初の『老ビプネンの腹の中』と最後の『トウラーダ』は、メインの主人公である白石誓の物語で、「エデン」の後を描いているが、共通するテーマは、ヨーロッパのロードレース界に暗い影を落としているドーピングの問題である。
その2つに挟まれた『スピードの果て』、『プロトンの中の孤独』、『レミング』、『ゴールよりももっと遠く』の4編の主人公は、それぞれ伊庭和美、赤城直輝、石尾豪と「サクリファイス」に登場した面々で、共通するテーマは、嫉妬やいじめという、突出する個人をスポイルする極めてやっかいで日本的な問題である。
こうした問題に直面しつつ、どうやって選手として生き延びていくのか、それが本作を通して貫く底流になっている。
前二作にあったミステリ的要素は今回は影を潜めているが、それぞれの登場人物の造形に膨らみを持たせることに成功しており、次作以降がまた期待される。☆☆☆1/2。