『アメリカン・スキン』

 今回の通勤電車内読書は、ケン・ブルーウン著「アメリカン・スキン」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 ちょっと前に紹介した「酔いどれ故郷に帰る」「酔いどれに悪人なし」のジャック・テイラー・シリーズとは独立したノン・シリーズで、アイルランドとアメリカの両極で生き、アイルランドで犯した罪から身を隠すためにアメリカ人になろうとするアイルランド人・スティーブの哀しくも切ない生き方を描いている。

 本書の主要な登場人物は男女6人。いずれもが何らかの悪事に手を染めており、その悪事の裏に複雑な背景を抱えている。主人公のスティーブとて例外ではないが、彼がまともに見えるほど強烈な悪をアメリカ人として配置することにより、アメリカの光とアイルランドの影を際立たせているように感じる。

 ケン・ブルーウンの他の著作でもそうだが、本書でも様々な音楽や著作からの引用が多く見られる。時代や風土、場の雰囲気を描くこうした引用は、その元となる音楽や著作を知っているともっと楽しめるのではないかと思うのだが、なかなかその域には達しないのは残念。でも、知らなくても十分楽しめるけど。☆☆☆1/2。

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