宮崎に出張に行ってきた。火曜日から金曜日までの長い出張で、都城市、延岡市、日向市、宮崎市、高原町の工業団地や立地している企業を訪問して、自分が売るモノを再確認する旅。3月までと違って、土地と雇用という手に持てないものを売らなければならなくなったので、こういう研修はありがたい。
その旅の途中、特に往復の飛行機の中で暇を潰すのに役立ってくれたのが、アッティカ・ロック著「黒き水のうねり」(ハヤカワ・ミステリ文庫)。
浦安市立図書館中央館でいつものように933(英米文学・小説)の文庫棚をブラウズしていた時にみつけたもの。2011年2月発行なので新しく、本文だけで600ページもあるので読み応えがありそうだったから借り出した。
ただ、600ページもあると、普段ブックカバーとして使っている「ほぼ日手帳」のカバーには収まりきらないんだけどね。
この「ほぼ日手帳」のカバー、文庫サイズで栞も2本付いているし、2つあるタブにペンを通すと開かないようにできるので、通勤鞄の中に放り込んだりするような使い方にとても便利なのだが、文庫本も高さが版元によって微妙に違っているので、表紙が差し込めない本が時々あって万能ではないのが残念。
そんな話はさておき、「黒き水のうねり」だ。著者のアッティカ・ロックは、シナリオライターとして活動後、本作で小説の世界にデビューした女性作家ということだが、これが期待以上に良かった。これだけの長さの物語をしっかり読ませる筆力はただものではない。
舞台は1980年代のテキサス州ヒューストン、著者の生まれ故郷らしい。主人公のジェイ・ポーターは、学生時代に公民権運動に深く関わり、重罪で逮捕、起訴された経験を持つ黒人弁護士。
そのジェイが、妻の誕生日を祝う河川クルーズ船の上で女の悲鳴と銃声を聞き、その現場から逃げてきたであろう白人の若い女を助け上げるところから物語が始まる。
本書の舞台となる1980年代当時のヒューストンは、有色人種(特に黒人)にとっては差別感の強い土地柄であり、石油メジャーを支配する白人の権力がとても強く、街のあらゆる部分を牛耳っていたと言っても過言ではない。
ジェイは、弁護士でありながら、過去の経験から警察を初めとする公権力と関わることを過度に恐れており、最初はこの女に関わることを拒否しようとするのだが、貧乏弁護士として手がける事件や、妻バーナディンの父であるボイキンズ牧師が関わる港湾労働者のスト騒動に嫌々ながらも巻き込まれるうち、自分を監視する者の存在に気付き、避けようとしていた事件の真相に次第に近づいていくことになる。
アメリカの公民権運動の、どちらかというと暗黒の部分の歴史を背景に、権力者の巨悪をじわじわと炙り出していく展開は、主人公ジェイのキャラクター設定もあって、時にまどろっこしい部分もあるのだが、よく練り込まれたプロットが最後まで飽きさせずに読ませる力を持ってる。☆☆☆☆1/2。
本作では、ジェイが弁護士として権力と闘う姿勢を見せるところで終わるので、エンディングの爽快感はないのだが、この後、ジェイがどのように成長していくのか、かつての恋人で今は権力の側にあるヒューストン市長・シンシアとの関係はどうなるのか、興味が尽きない。
高山真由美による訳者あとがきによれば、著者は現在2作目を執筆中ということだ。それが本作の続編になるのかどうかは明らかにされていないが、是非ともそうであってほしいと願う次第である。