『破壊者』

 今回ご紹介するのは、ミネット・ウォルターズ著『破壊者』(創元推理文庫)

 イギリスの南西部、ドーセット州チャプマンズ入り江に打ち上げられた女性の全裸死体が発見され、同じ頃にその現場から20km以上離れたリリパットの町で自閉症らしき幼い女の子が一人で歩いているところを発見される。
 検死解剖の結果、溺死した女性は、扼殺未遂のまま海に投げ込まれ、長時間漂ったあげくに末に絶命し、レイプされた痕跡があり、何本かの指を折られた上に14週になる男児を身籠もっていたことも判明する
 また、発見された幼女は、この女性の一人娘であったことも、父親からの連絡で判明する。

 娘から離れることの無かったはずの母親が、なぜ殺されるにことになったのか、関係者の聞き込みが開始される。
 それぞれの立場で見方の異なる被害者像、関係者像が、複数の人間の証言によって次第に立体的に浮かび上がり、被害者と犯人を結びつけ、事件の真相が明らかになる。

 「証言の食い違い」を突き詰めていく捜査陣、複数の関係者をめぐる重層的な物語が、証言を通じて紡ぎ上げられていく。

 著者のミネット・ウォルターズは、1992年のデビュー作『氷の家』で英国推理作家教会(CWA)最優秀新人賞(ジョン・クリーシー賞)を受賞、1993年の『女彫刻家』でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)エドガー・アラン・ポー賞年間最優秀長編賞、1994年の『鉄の枷』と2002年の『病める狐』でCWA年間最優秀長編賞(ゴールドダガー)を受賞と、名実共に「ミステリの新女王」と称される作家である。

 著者の第6長編となる本書でもその実力は遺憾なく発揮され、500ページを超える長編ながら、見事なページターナーとなっている。☆☆☆☆1/2。

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