『本の雑誌』2012年12月号の大井潤太郎氏のコラム「薔薇の木に、薔薇の花咲く」は、「図書館とベストセラー」がテーマ。
冒頭、ちょっと長くなるが引用する。
「 論創社の森下紀夫さんは図書館の状況に対して、悲鳴を上げるように発言している。公共図書館が3082館、大学図書館が1645館、合計すると4736館もあるのに、どうして人文、社会科学の初版千部が売れないのか。いくつもの新聞書評が出ても、その千部、千五百部が売れず、重版もできない。一体何を基準にして選書しているのか(「出版業界の危機と社会構造」)。」
で、これに続いて、いつもながらのベストセラーの複本問題が指摘されているが、これについては語り尽くされている感もあるので、ここには突っ込まない。
良心的な出版社が、世のため人のために役立つことを願って、懸命な努力で本を出そうとしていることは理解できる。できることなら、図書館はそうした出版を下支えする存在であるべきだと思う。
しかし、だ。市町村立図書館の現状を考えると、現実に買えるのか?という問題になる。
日本著書販促センターのデータによると、2010年の新刊書籍の刊行点数は74,714冊、平均価格は1,126円となっている。
一方、日本図書館協会が公表しているデータによると、2011年の市立図書館2,540館と町村立図書館588館の図書費の合計は201億1,448万円なので、1館当たりの平均は約643万円となる。
これを上記の平均単価で割れば、1館当たり年間に購入できる新刊図書の数は5,710冊となる。年間に出版されている新刊の1割も買えないのだ。
それで、公共図書館の蔵書構成を考えると、どうしても文学が多くなりがちだから、社会科学系の書籍に振り分けられる予算は10%にも満たない訳で、年間500冊も買えれば相当に多い方ということになる。
更にこの500冊の中には、一般的にビジネス書と呼ばれる書籍もかなり含まれるし、社会科学と一口に言っても結構幅広いので、専門的な書籍の購入はますます少なくなってしまう。
単純に考えると、大学図書館も含めて3館に1館が購入できれば、初版1,500冊は難なく売り捌けるはずなのだが、そのためには大多数の図書館が、年間1万冊以上の新刊書が買える予算を持たなければならないだろう。
ベストセラーを買っているから社会科学の専門書が買えないのではないのだ。「もっと資料費を!」と、図書館の現場は思っているはずだ。
あと、出版社側の熱意が、顧客である図書館の側にきちんと届いているのか?、という疑問もある。
1,500部を図書館に買って貰うための営業をこまめにやっている出版社はどれほどあるのだろうか?。