『はいつくばって慈悲を乞え』

 今回の通勤電車内読書は、ロジャー・スミス著『はいつくばって慈悲を乞え』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
 南アフリカ共和国・ケープタウンの貧民居住区ケープフラッツを舞台にしたクライムノベルだ。

 アメリカ人の元モデル、ロクシー・パーマーは、夫のジョーと車で出かけた帰りに、乗っていた車を強奪しようとした二人組の男に襲われるが、そのどさくさに紛れてジョーを射殺する。
 警察は、強盗殺人事件として二人の行方を追うが、そのうちの一人ディスコは、犯罪組織のトップで今は刑務所の中で将軍として君臨しているバイパーと深い関係にあり、バイパーの元に戻ることを約束させられていた。
 一方、ロクシーの前には傭兵斡旋業者だったジョーに雇われていた元警官のビリー・アフリカが現れ、未払いの給料を取り戻すためにロクシーのボディーガードを買って出る。
 犯人を追う警察の一員アーニー・マーゴット警部は、昇進するために人目につく大きな事件の解決を目指しており、犯人はロクシーではないかと睨んで動き始める。

 物語は、ロクシーを中心に動いているように見えるが、実は登場人物達それぞれが暗い過去や厳しい現実を抱え、それを乗り越えようともがきつつ生きている。
 麻薬が蔓延し、どん底の環境でその日その日を生き抜かなければならない人々が生活する貧民居住区を背景に、跋扈する犯罪組織同士の勢力争い、腐敗する警察組織などを織り込みながら、そうした登場人物達の生き様を描く群像劇と言って良いだろう。

 巻末解説の冒頭でミステリ評論家の関口苑生氏も「小説には多かれ少なかれ現実が反映されているものだ。」書いているが、本作で描かれたケープタウンも少なからず現実の貧困と混沌を反映しているとすれば、その絶望的なまでに厳しい現実に打ちのめされそうになる。☆☆☆1/2。

Translate »