通勤電車内読書、今回のご紹介は、クリス・クノップ著「私が終わる場所」(ハヤカワ・ミステリ文庫)。
勤めていた大企業の経営方針に愛想をつかして会社を辞め、妻と別れ、娘にも見切られて、亡くなった父親が造り、母親から相続したサウサンプトン(ニューヨークに住む富裕層の避暑地)の家に一匹の犬と住む主人公のサム・アキーロ。
元エンジニアにして元ボクサーの彼が、隣人の老女の死を発見し、その遺産管理人を引き受けたことから事件が動き出す。
エンジニアとしての勘と観察力で隣人の死に不審な点を感じ、調査を進めてわかった事項を論理的に整理して謎を次第に明らかにして行く。その彼を助ける脇役の警官や弁護士や料理屋のおやじや女達。
抑制された乾いた感じの描写に、時としてシニカルな気の利いたセリフ。派手ではないが、中年男の再生を描くハードボイルド・ミステリー。主人公との年齢が近いこともあって、非常に面白く読めた。
作者のクリス・クノップはとある広告会社の会長で、本作が処女作だというが、処女作であることを感じさせない円熟した味わいがある。同じ主人公の次作”Two Time”は未訳のようだが、是非とも読んでみたい。
個人的にはツボにはまって、☆☆☆☆1/2。