『死を騙る男』

 今回の通勤電車内読書は、インガー・アッシュ・ウルフ著「死を騙る男」(創元推理文庫)前回と警察小説つながり(しかも主人公が女性)というのは、単なる偶然。

 主人公のヘイゼル・ミケイリフは、カナダ東部オンタリオ州の田舎町ポート・ダンダスの警察所長代理で61歳、慢性的な背中の痛みに苦しんでいる。一緒に暮らす母親のエミリーは、ポート・ダンダスの元町長で、周囲からは今でも「閣下」と呼ばれている。
 その田舎町に住む末期癌に冒された老女ディーリア・チャンドラーを一人の男が訪れる。彼は、ディーリアとの契約を果たすために、自ら薬草を処方したハーブティーをディーリアに与え、彼女を眠らせると、その命を奪う。
 翌日、ディーリアの死体が発見されるが、その死体は喉が切り裂かれ、口は張り裂けんばかりに開かれていた。

 州警察本部から統廃合の対象とみなされている人員不足のダンダス署を率いるヘイゼルは、新たな部下を得て捜査に臨むが、やがてその捜査は、カナダ全土を巻き込む連続殺人事件へと発展する。

 ベラドンナと呼ばれる犯人と、それを追うヘイゼルの交互の視点で語られる物語は、同じカナダのマイケル・スレイドばりの猟奇性をはらみながら、自ら死を選んだ被害者達の事情も絡めて展開されて行く。
 物語全体を貫く大きな軸は、「喪失と再生」ということになるのかな。終盤で明かされる犯人の再生への渇望と、愛する夫を失い、本部からも見放された田舎町の警察署で病に苦しむヘイゼルの再生の物語。

 著者のインガー・アッシュ・ウルフはこれがデビュー作とのことだが、訳者あとがきによると「北アメリカの純文学作家の変名」とのことで、並みの新人とは違った筆力に溢れている。☆☆☆☆。

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