『デッド・オア・アライヴ』

 著作が出版されると必ず購入する作家というのは決して多くないが、私にとってトム・クランシーは、その数少ない貴重な作家の一人だ。
1984年の『レッド・オクトーバーを追え』の衝撃のデビュー以来、四半世紀に渡って軍事サスペンス(軍事シミュレーション)の分野で比類の無い作品を発表し続けている。
特に、ジャック・ライアンを主人公とする一連のシリーズは、描かれる世界のスケールの大きさ、綿密な取材に基づいた細部のリアリティ、生き生きした人物造形という点で、超一流のエンタテインメントであると同時に、現実の国際情勢を反映させた現代史の参考書としても読むことができる。
もちろん、クランシー自身の共和党的と言うかウィルソン主義的と言うか、あくまでもアメリカが世界の警察としてその世界を守るという価値観が、特に最近の作品では少々鼻につく場合も無いではないが、それがアメリカという国の考え方のひとつだと考えれば、それによって作品のクオリティが損なわれるものではない。

さて、今回紹介する『デッド・オア・アライヴ』(1~4巻、新潮文庫)は、今回は、グラント・ブラックウッドとの共作で、前作の『国際テロ』から7年ぶりに邦訳されたジャック・ライアン・シリーズの待望の最新作。
描かれるのは9.11後の世界で、ウサマ・ビンラディンがモデルと思われるテロリスト<アミール>が企てるアメリカ国内外での連続テロと、その動きを察し防ごうとする隠密諜報機関<ザ・キャンパス>の面々の手に汗握る攻防。
今回は、ジャック・ライアン・シリーズから派生したレインボー・シリーズで活躍していたジョン・クラークとドミンゴ・シャベスも<ザ・キャンパス>のメンバーに加わって楽しませてくれるし、何よりも、引退したジャック・ライアン本人が、再び合衆国大統領へ向けて動き始めるというサブストーリーもある。

アメリカにとって「テロとの戦争」とは何なのか、イスラム原理主義とは、インテリジェンス(諜報)の世界とアメリカ国内の政治的な動向は、などなどいろんなことを本書を通して知ることができる。世界の窓としてもお薦めの作品である。

シリーズの続編”Locked On”も翻訳が進行中とのこと。果たしてライアンは大統領の座に返り咲くことはできるのか、テロリストへの核の供給源となりかねないパキスタンの状況は、まだまだクランシーの描く世界から目が離せない!

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