徒歩通勤で内勤メインになり、夜はテゲツー!の原稿書きに追われるという生活で、なかなか本が読めなくなったが、それでも昼休みのわずかな時間をつないで、スマホのkindleで読み終えたのは、フレンチミステリの話題作、ピエール・ルメートル著『その女アレックス』(文春文庫)。「
この作品、『このミステリーがすごい!2015』海外部門第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第1位、「ミステリが読みたい!」海外編第1位、「IN★POCKET文庫翻訳ミステリー・ベスト10」第1位、本屋大賞翻訳小説部門第1位という、文句のつけようのない高評価だったので、ミステリ好きとしては、ほってはおけない作品だった。
実際に読んでみて、その絶賛ぶりもむべなるかなというのが率直な感想。
基本的にはタイトルにもなっている若い女アレックスの物語なのだが、その人生の有様が、読み進むうちに起承転結の中で変容していくプロットが素晴らしい。
最初は誘拐・監禁事件なのだが、それがシリアルキラーの物語に、そして壮大な復讐譚へとメタモルフォーゼしていく構成に、ページをめくる手が止まらない(読む時間が限られているので、どうしても止められてしまうけど)。
登場人物の造形も見事で、事件の流れとは別に底流にあるもう一人の主人公カミーユ・ヴェルーヴェン警部の物語も気になるところ。
本作は、このカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの2作目として書かれたものらしいが、現段階で全5作のシリーズで本作以外は未訳。このヒットで、他の作品も翻訳されるといいのだが。
フレンチ・ミステリには馴染みが薄いのでよく知らなかったが、調べてみると著者のピエール・ルメートルは、1951年生まれで作家デビューは2006年と、作家としては遅咲きだが、職業教育の場で図書館員相手に文学を教えながら脚本家として活躍していたというから(Wikipedia情報)、さすがに物語を紡ぐ基本はしっかりできているということか。
本国フランスでの評価はもちろん、本作では英国推理作家協会の2012年インターナショナル・ダガー賞(翻訳小説賞)を受賞している。
先にも書いたが、日本語に翻訳されている作品は本作以外にもうひとつ(『死のドレスを花婿に』(文春文庫))だけなので、他の作品の刊行が待たれるところ。
☆☆☆☆1/2