『酔いどれ故郷にかえる』

『酔いどれ故郷にかえる』書影

 今回の通勤電車内読書は、ケン・ブルーウン著「酔いどれ故郷にかえる」(ハヤカワ・ミステリ文庫)。前回から2週間も空いてしまったのは、この間に雑誌2冊(BE-PALと本の雑誌)が含まれているのと、Twitterに時間取られたから、かな?。

 そんなことはさておき、浦安市立図書館中央館でいつものように933の文庫棚を物色してて、なにげに手に取った本書、またご機嫌な作家を見つけてしまったぜ、という感じ。
 舞台は、1991年のアイルランドのゴールウェイという町。主人公のジャック・テイラーの故郷で、ジャックは元警官のアル中でヤク中。ロンドンから故郷に帰ってきたジャックが、ティンカー(アイルランドの漂白民、いわゆるジプシー)のスイーパーから、仲間を次々に殺している犯人を捕まえて欲しいと依頼されるところから始まる。
 決して格好いい物語ではない。どうしようもない、酒と薬に堕ちた壮年男が、周りの助けを得ながら、なんとか生きていく、そんな物語なのだが、ジャックは酒好きでもあるけれども本好きで、ミステリ作品へのオマージュともなっている所が、ミステリ好きにはたまらない。ジャックの会話の中に、エド・マクベインが出てきたり、ペレケーノスが出てきたり。ミステリに限らず、他にもいろんな作家や作品や音楽やミュージシャンが登場する。さすがにその全てを知っている訳ではないけど、知っているともっと楽しめるのだろうなと思わせる。

 最近読んだ図書館関係者のツイートに、「貸出冊数の多さを自慢げに広報している図書館を見ると、そこに教養など期待できないと思ってしまう。」なんて発言があったけど、こうしたエンタテイメント作品にも、しっかりと教養は満ちあふれていて、教養の深みがないと楽しめない作品はたくさんあるのだよ。
 本書だって、単に人が死んで、その犯人をみつけるだけの話ではなく、ダウン症の子どもが生まれて悩む父親の生き様だったり、父親から虐待を受けて育ったソーシャルワーカーの生き様だったり、挿話として描かれる登場人物達の行動のひとつひとつが、何かしらの深みを背景に持っている訳で、これ1冊をしっかりと読み込むだけでも、立派に教養が得られるってもんだ。そもそも、「教養」って何なんだ、とそいつには言いたい。

 閑話休題。
 登場人物のジャックと、今の私と、年齢が近いこともあるし、ギネス好き(ジャックはいつもパイントを飲んでいる)で本好き(特にミステリ)でという共通点もあるし、決して格好いい主人公ではないけれども、大いに楽しめた作品だった。☆☆☆☆。

 作者のケン・ブルーウンは、本書の舞台のゴールウェイ在住で、日本のアメリカン・スクールで教えていたこともあるとか。本書はジャック・テイラーシリーズの2作目ということで、1作目の「酔いどれに悪人なし」を読んでみたくなったが、浦安市立図書館には蔵書されていないので、Amazonで検索して中古品の購入ボタンを押してしまったよ。

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