『ドッグタウン』

 今回の通勤電車内読書は、メルセデス・ランバート著「ドッグタウン」(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 まだキャリアの浅い女性弁護士ホイットニー・ローガンが主人公のシリーズ第一作。
 事務所にやってきた女性から失踪したメイドの捜索依頼を受けたホイットニーが、依頼人からの情報を頼りに苦労の末にたどり着いたのは、一人の女の他殺体。しかも、その死体が少しの時間の間に現場から消え去ってしまう。
 依頼人が自分に明かした経歴は嘘ばかりで、捜索対象の人物についての情報も信じられなくなってくる。
 果たして死んでいたのは誰で、殺したのは誰なのか?。ホイットニーは、事務所の傍で商売していた街娼のループの助けを得ながら、徐々に真相に迫って行く。
 白人で世間知らずだが正義感に燃える堅物の弁護士と、メキシコ系で世間ずれして生活力が溢れ、ハリウッド映画の知識も豊富な売春婦の組み合わせが、古くは弥次喜多道中(古すぎるか)、最近ではC3POとR2D2の凸凹コンビのようにうまく噛み合っている。お互いの生い立ちや文化の違いから来る軋みが、ホイットニーを少しずつ成長させても行く。
 移民の問題やアメリカと中南米諸国との関係など、時事問題も織り交ぜながらストーリーが展開し、そして最後に訪れるほろ苦い結末。☆☆☆1/2。

 女性の作家が描く若い女性による謎解きと言えば、サラ・パレツキーによるV・I・ウォショースキーを主人公とするシリーズがすぐに頭に浮かぶ。あちらはシカゴが舞台、こちらはロサンゼルスが舞台で、それぞれの街の風俗や文化、季候がよく活写されていると同時に、女性ならではの経験や視点が作品に垣間見えて、男性が主人公のミステリとはひと味違う面白さがある。

 この作品も、厳しい現実の中で懸命に生きる女性の物語であると同時に、若い主人公の成長譚でもあり、この後「Soultown」(1996)、「Ghosttown」(2007)とシリーズが続くので、ホイットニーとループのこれからの物語を読むのが楽しみなのだが、残念ながら著者のメルセデス・ランバートは、2003年12月22日、最後の作品「Ghosttown」が出版される前に癌のために亡くなっている。
 しかし、幸いにしてと言うか、本作に続く2作は既に邦訳されてハヤカワ・ミステリ文庫で出ており、いずれも浦安市立図書館に蔵書されているので、次は「ソウルタウン」を借りて読む予定。

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