『ソウル・コレクター』

 今回ご紹介するのは、ジェフリー・ディーヴァー著『ソウル・コレクター 上』『同 下』(文春文庫)

 リンカーン・ライム・シリーズの8作目。タイトルの「ソウル・コレクター」は、シリーズ初巻のの「ボーン・コレクター」を思い起こさせるが、原題は“The Broken Window”(割れ窓)で、「ソウル・コレクター」というのは、著者のディーヴァーが日本版の出版のために提案した複数のタイトルの中から選ばれたものらしい。

 「ボーン・コレクター」は、その名のとおり骨をコレクションする殺人者だったが、ソウル=魂を集める者とはいったいどのような相手なのか?。
 描かれるのは、テクノロジーの進歩により、あらゆるものがネットワークに繋がり、そこで収集される様々なデータから有用な情報を拾い出して個人に関連づけ、利用していくデータマイニング会社の実態と、そのデータを悪用して自分の心の隙間を埋めていくシリアル・キラーという、極めて現代的なテーマである。
 シリアル・キラーはさておき、ビッグデータによる個人監視は十分にあり得る、というか、既に現実に行われているであろう話であり、日常の利便の積み重ねと引き替えにプライバシーを失っている可能性を指摘されると、怖ささえ覚えてしまう。
 「ソウル・コレクター」という邦題が意味する所は、深くて重い。

 ビッグデータの利用と解析は、作中でも登場人物によって語られるように、功罪両面あるので、今更やめられる話ではないだろうが、ネット上では別の人格を設定するとか、そういう対策が個人的にも必要かなと思ったりもした。

 シリーズとしても円熟し、ディーヴァーの描く物語のリーダビリティは今更言うまでもないが、ミステリとしてのみならず、急速に進歩を続ける情報化社会への警句として、是非とも一読をお薦めしたい作品である。☆☆☆☆☆。

 蛇足だが、下巻の巻末には、2010年11月18日に日本で行われたディーヴァーと俳優・児玉清の対談(NHK-BS《週間ブックレビュー》(2010.11.20放送)のためのもの)が再構成して収録されていて、ディーヴァー創作の過程の一端が垣間見えるのも面白い。

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