【産経新聞】図書館への民間参入

 今朝出勤したら、10月19日(金)付け産経新聞の6~7面の「オピニオン」欄を職場の若い同僚が切り抜いて机の上に置いてくれていた。テーマは「図書館の民間参入」。

 記事の発端は、佐賀県武雄市の市立図書館でCCCへの事業委託が始まることになり、「本を貸し出し際に買い物に使えるポイントを付与するサービスの導入の是非などが議論となっており、公立図書館の民間への運営委託のあり方が改めて注目されている。」ということらしい。

 6面に掲載されている「金曜討論」は、このテーマについて、と東洋大学経済学部の山田肇教授と関東学院大学文学部の山本宏義教授へのインタビュー。

 山田氏は、MIT大学院、NTTを経て現職で、情報アクセシビリティや情報メディアの経済学及び技術経営などが専門分野で、どちらかというと民営化に対し慎重な立場。

 一方の山本氏は相模原市立図書館長、広島市立中央図書館長を歴任し、日本図書館協会の理事も務めるなど、どちらかというと民営化に積極的な立場。

 まず、山田氏へのインタビューでは、(注:一部、引用者による要約あり)

Q: 民間企業に運営を委託する公立図書館は、全国3190館のうち約9%を占めるが、数年間と限定的な指定期間での図書館運営に問題はないか?。

A: 指定管理者制度の期間終了後に、企業側の意向で契約を更新できない場合もあるだろうが、そのリスクも含めて自治体が考えた上で民間に委託すべき。

Q: 貸出履歴など利用情報の収集と商業目的での活用が許されるかも論点

A: 年齢、性別、借りた本というように匿名化されて個人が特定できない情報であれば、個人情報保護法の対象には当たらない。
 そのような利用傾向などの抽象的な情報であれば、委託を受けた民間企業が図書館の運営に活用するほか、図書館と関係ない営利事業への活用も問題ない。
 また、図書館の運営に参画する企業もそうしたメリットに期待しているはずだ。

Q: 佐賀県武雄市の図書館での貸し出しの際にCCCの「Tカード」を利用し、ポイントの付与を受けられるサービスの導入について、営利企業のシステムを取り入れるべきではないと日本文芸家協会などから反対の声が出ている。

A: ポイントは無人の貸出機を使って本を借りた場合に付与される。人件費削減のために、無人貸出機の利用に誘導する仕組みで、合理的なアイディアだと思う。
 また、『Tカード』を使うか、従来型の図書館利用のカードを使うかは、利用者が選択できる仕組みになっているので、サービスを受けたい人が選べばよい。
 1回の利用で得られるポイントはわずかなため、射幸心をあおることもない。

Q: 民間企業に委託することが図書館のサービスの質の低下につながるという意見もある。

A:何か明確な根拠があっての意見ではない。むしろ民間企業の手法を取り入れることで、便利になる可能性は大きい。
 貸し出し履歴を記録し、その利用者が興味を持ちそうな他の本を提示する『リコメンド機能』も民間では一般的なサービスだが、希望者を対象に導入すれば便利だろう。

Q: 図書館を運営する上で何を重視すべきか。

A: 利用者の個別ニーズに柔軟に対応し、利便性の向上を図ることが大切。
 『個人情報の保護』をという言葉を盾に、硬直的な一律のサービスしか受けられないのは良くない。

 「Tカード」の部分、無人貸出機への誘導のインセンティブのためにポイントを付けるというのであれば、2種類のカードを併用し、カードの違いによって受けられるサービス(ポイント)が違うというのは問題ありなのでは、という突っ込みが欲しかったな。

 一方の山本氏へのインタビューは、

Q: 公立図書館の民営化についてどう考えるか。

A: 民間企業に運営を委託する公立図書館は増加傾向にある。
 しかし、利益を上げることを本来の目的とする民間企業と、非営利の図書館の運営とは、なじまないのではないか。
 書籍や資料など人類の知的遺産を永続的に集積、提供し、住民や研究者が触れられるようにするのが図書館の役割。数年間の計画はもちろん、同時に数十年単位で運営を考えて行く必要があるが、民間企業ではそれが難しい所がある。

Q: 利用者が専用のカードとCCCの「Tカード」から選択し、Tカード利用者には貸し出し時に買い物に使えるポイントを付与するサービスが導入されるが、その是非が議論されている。

A: 好ましくないと思う。買い物に使えるということで、結果的に射幸心をあおることにつながる可能性は否定できない。喜ぶ人もいるだろうが、図書館の本来的な役割や機能から考えると疑問が残る。
 こうしたサービスが一度始まると、今後、他の民間運営の図書館で同様のサービスが増え、ポイントの付き方がエスカレートしていく懸念もある。

Q: 民間企業への運営委託は、サービス向上に加えて、人件費などのコスト削減につながる期待がある。

A: コスト削減を第一の目標にしてしまうと、サービスの悪化につながることが多いので反対だ。
 千代田区立図書館(東京都)は、平成19年から民間企業が運営することになったが、コスト削減ではなく、開館時間の延長や情報発信の強化などサービスの充実を目的にしている。その結果、運営費は減っていないが、利用者数は大幅に増えた。永続的な運営という観点で課題は残るが、民間への委託が成功した好例だろう。

Q: 武雄市の市立図書館でも開館時間が午前9時から午後9時までと4時間増える。

A: 千代田区立図書館は午後10時まで開いているが、自宅が都心から遠く、帰宅時に地元の図書館が閉まっている会社員らのニーズが強い。
 武雄市の場合、県外の利用者が少ないと考えられ、大きなメリットがあるのか疑問が残る。

Q: 公立図書館は直接自治体が運営すべきか。

A: 自治体が直営し、サービスの向上を図るのが本来的には望ましい。民間委託をする場合も、丸投げを避けて運営をしっかりとみていくべきだ。
 図書館の公共性を厳密に捉え、利用者の承諾があっても貸し出し情報など個人情報の商業利用を許すべきでない。

 この「金曜討論」と見開きで7面に配された「eアンケート 私も言いたい」では、「図書館の民間参入」について、紙面に掲載された項目に対して寄せられた読者の意見を紹介している。回答者は、505人(男性380人、女性125人) 。

 まず、大勢として、

(1)公立図書館の運営は改善が必要か
YES: 84%NO: 16%
(2)民間企業への事業委託を進めていくべきか
YES: 48%NO: 52%
(3)ポイントサービスを導入するのは適切か
YES: 31%NO: 69%

 ポイントサービスに対する反対意見が多いのは、やや意外。このアンケートに回答した読者は、図書館サービスに関心が深い層と考えられるが、そうした層にはポイントサービスは馴染まないということか。

 以下、自由記述の中から目についたものを拾うと、

「平日昼間はそもそも納税者たるサラリーマンが利用できない。(遅くまでやらないのは)納得いかない」(東京・男性会社員(52)

「その道のプロが参入できるという意味で、民間参入の動きに賛成する。公務員だから公立図書館の運営を行うというのは意味がない」(千葉・男性会社員(49))

「今の公共図書館には当然改善が必要だ。行政が図書館にあまりにも無関心で、司書の専門性も生かし切れていない」(長野・女性公務員(30))

「完全に民営、営利目的にしてしまったら、人気作家や流行に主眼が置かれ、蔵書の質の低下が起こる」(メキシコ在住・男性会社員(57))

「なんでも民間に丸投げすれば健全化するというものではないだろう。行政で運営すべき事業というものがあるし、そうでなければ政府なんてものはいらない」(石川・男性自営業(40))

「公共サービスは、ある程度の品質と安定性が第一に保たれるべきだ。民間への事業委託は、もうけ主義的発想などによるサービスの質の低下を引き起こしかねない」(兵庫・女性パート(34))

 開館時間も含めて、これまでの図書館サービスが利用者のニーズとうまくマッチしてこなかったのは確かだが、自治体の財政状況が悪化する一方の中、直営という運営方式によるサービスの硬直化やコスト高があることも事実。

 それを解消するための手法のひとつが「指定管理者制度」なのだが、そもそも管理委託する場合の仕様を決め、その運用を管理するのは行政の側なので、山本氏の言うように「丸投げを避けて運営をしっかりみていくべき」なのは当たり前。

 運営を引き受ける民間側が、司書の採用や研修をしっかり行い、複数の館の運営を受け持つことによって職員の異動、キャリアアップなども行えるのであれば、職員の専門性も確保されたまま、直営以上のサービスを行うことは可能だろう。そのために民間側に与えるメリットをどこまで許容するかどうかなのだと思う。

 個人的には、図書館の利用にポイントなど必要ないし、そのためにかけるシステム回収のコストや手間を考えれば、その分は少しでも資料の充実に回して欲しいと思う。

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