今回のご紹介は、大半を先週の宮崎出張の飛行機の中で読んだ、ジム・ケリー著「水時計」(創元推理文庫)。イギリスの本格ミステリである。
主人公のフィリップ・ドライデンは、イギリス東部の町イーリーで週刊新聞『クロウ』の上級記者。元はロンドンの『ニュース』紙の敏腕記者だったのだが、2年ほど前の交通事故で昏睡状態となり、この地のタワー病院に入院している妻ローラのため、ロンドンから移り住んでいる。
同乗していた妻と事故に遭って以来、車を運転しないドライデンの足となっているのが、ハンフリー・H・ホルトの運転するおんぼろタクシー。このホルト、100kgを超す巨体の語学マニアで、余計なことを喋らず、暇さえあれば車のカセットで語学テープを聞いているのだが、ドライデンとのコンビでなかなかいい味を出している。
さて、11月8日の木曜日、フェン(沼沢地)と呼ばれる一帯を流れる氷結した川に沈んだ車の中から、一人の男の射殺体が発見されたところから物語が始まる。
その翌日には、改修中のイーリー大聖堂の屋根の雨樋から、30年ほど前に死んだと思われる白骨体が発見され、現場の遺留品から、それが1966年に起きた強盗・殺人未遂事件の容疑者トマス・シェパードであることが判明する。
過去の事件の真相を探るドライデンは、何者かの脅迫を受けるようになり、過去の事件と現代の殺人事件のつながりが次第に明らかになっていく。更にそれが、ローラを昏睡状態にさせるに至ったあの交通事故の原因にも繋がって行く。
イギリス東部の冬の厳しい自然環境を背景に、暗く冷たい水に囚われた経験を持つドライデンが、ひたひたと押し寄せる水のごとき犯人の影から逃れ、真相を暴く傑作☆☆☆☆1/2。
このフィリップ・ドライデンを主人公とするシリーズは、イギリスでは本作を第一作として2008年までに5作が刊行されているとのこと。是非とも続刊が邦訳されることを望む。