『煉獄の丘』

今回の通勤電車内読書は、昨日の「狼の震える夜」に引き続き、ウィリアム・K.クルーガーによるコーク・オコナー・シリーズ第3作「煉獄の丘」(講談社文庫)

 前作の巻末で許されて家族の住む自宅に戻ったコークの寝起きを襲った爆発音は、アニシナーベ族が〝我らが祖父〟と呼び守ろうとするストローブ松の森の伐採権を所有する製材所で起きた爆破事件だった。
 製材所の所有者カール・リンドストロムと外部からやってきた環境保護団体「環境保護の戦士」との間で緊張が高まる一方で、10年以上前にスペリオル湖で起きた運搬船の沈没事故で同乗していた弟を亡くしたアニシナーベ族のジョン・ルペールは、沈没の原因が船を所有していた海運会社の陰謀ではないかとの思いに駆られて、独自に沈船の調査を行っていた。
 真相解明に焦るルペールは、相棒で元海軍特殊部隊員と称するブリッジャーとともにカールの妻で海運会社の役員でもあるグレイスと彼らの息子のスコットを誘拐し、カールに2万ドルの身代金を要求するのだが、偶然にその場に居合わせたコークの妻ジョーと息子のスティービーも巻き込まれて連れ去られ、監禁されてしまう。

 妻と息子の行方を必至で追うコークは、監禁されていた4人の元へ辿り着き、意外な事件の真相を知ることになるが、撃たれ傷ついて彼らを救出することができない。
 絶体絶命とも思えるピンチにも関わらず、必至に妻と子を助けようともがくコーク。終盤の手に汗握る展開は、ハードボイルドの真骨頂。このあたりもクルーガーの筆は冴えている。

 前作で許されたはずのコークとジョーの関係は、序盤はまだぎくしゃくとしているが、物語の中盤で復活し、最後により強固になって行く。
 第1作から本作に至る3作で、主人公の喪失と再生という大きな一つの物語が完結した印象。☆☆☆☆☆。

Translate »