『少年時代』

 読んでいるうちに面白くて一気呵成に読み進んでいくものの、残りのページ数が少なくなっていることに気づくと、途端に読み終わりたくない、もう少し楽しませて欲しいと思わせ、読了するのがもったいなくなる小説がある。本書がまさにそんな小説である。

 ロバート・R・マキャモン著『少年時代』(ヴィレッジブックス)。
 元々、文春文庫で出ていたのだが、2005年にソニー・マガジンズのヴィレッジブックスで再刊された。文庫版の上下巻で、右の画像は上巻である。
(※ 文春文庫版はこちら(Amazonへのリンク)

 「『本の雑誌』が選ぶ90年代ベスト100」に入っていて、読むべく探していたのだが、文春文庫では入手ができなくなっていて(古書を探せば別だが)、つい最近、再刊をされているのを楽天市場で知って購入ボタンを押した次第。

 上巻は通勤電車の中で読了し、下巻は先日の宮崎出張のお供に持って行って、旅程前半で読み切ってしまった。

 基本的には一人の少年の成長の物語なのだが、物語の縦糸に少年とその父親が偶然に巻き込まれた殺人事件の謎解きを置き、黒人の公民権開放の歴史など60年代から70年代にかけてのアメリカ南部の政治・風俗と少年時代に誰しも経験したであろう魔法を信じる心を横糸に物語が紡ぎ上げられて行っている。
 ちょっとした挿話が後になって生かされる巧妙な仕掛けがあちこちにあって、重層な読み物である。マイベストに入れる一編がまた増えた。

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