『夜のフロスト』

『夜のフロスト』書影 前回からちょっと時間が空いてしまったが、今回の通勤電車内読書は、R・D・ウィングフィールド著「夜のフロスト」(創元推理文庫)。『本の雑誌』2010年9月号の翻訳ミステリー特集で「初心者におすすめの30冊」に入っている一冊で、同著者によるフロスト警部が活躍するシリーズの3作目である。

主人公のフロストは、英国のデントンという街にある警察署に勤める警部で、ヨレヨレのコートとぼろ雑巾を絞ったような茶色いマフラーがトレードマークの嫌みな中年おやじ。イメージできる外観って、イギリス風コロンボって感じかな。それに加えて下ネタ満載の下劣なギャグや残虐な悪口をすぐに口にするし、捜査は自分の直感に頼っていて、思い立ったがすぐ行動みたいなところがある。不思議と憎めないおやじ。
そんなフロストが本書で取り組むのは、流感が蔓延して人員不足に陥ったデントン警察所管内で発生する金持ち夫婦への嫌がらせ、少女の行方不明事件、少女の自殺、高齢者ばかりを狙う窃盗、高齢者を狙う連続切り裂き殺人と、次々に襲いかかる事件のオンパレード。これに加えて、署長のマレットから、事務作業の無理難題を押しつけられたりもする。
こうした事件の現場に、新任の部下ギルモア部長刑事を引き連れて乗り込み、悪口雑言まき散らしながらあちこちしている間に、徐々に明らかになってくるそれぞれの事件の真相とそれぞれの繋がり。直感で動くフロストが目を付けた犯人が実はそうではなく、捜査の失敗と思わせながら、その積み重ねが結局のところ真犯人に繋がっていく。血気にはやるギルモアをいつの間にかうまく導いちゃったりもする。

これはコメディなのかと思わせていて、ちゃんと上質なミステリに仕上がっていくところが、この著者の上手さなのか。文庫本で全761ページ(解説含む)、結構なボリュームがあるが、そのボリュームを感じさせない軽妙なストーリー展開と密度、なかなかのものである。
ちょっと調べてみたら、このフロスト警部シリーズ、本国イギリスではテレビドラマ化されていて、全41話あるらしい。DVDも出ているらしいので、機会があったら観てみたいものだ。

中年おやじが主人公で、この味わいは40過ぎないとわからないかもしれないが、私自身はなかなか楽しませてもらったので、総評は☆☆☆☆。

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