『追跡する数学者』

 今回の通勤電車内読書は、デイビッド・ペイジョー著「追跡する数学者」(新潮文庫)

 何事も数式にして考えるフィリップが、突然失踪した恋人のアーマを、彼女が装幀してフィリップに遺した351冊の蔵書を手がかりに、その行方を追うという物語なのだが、ミステリかと思ったらそうではなく、アーマの遺した蔵書の一部(セルバンテスの「ドン・キホーテ」やカミュの「ペスト」など。三島由紀夫の「午後の曳航」も含まれていたりする。)についての書誌学的な知識をベースに、数学的な知識を絡めて、官能的要素でスパイス効かせたような小説と言うのかな。

 それなりに楽しめるんだけど、知識のひけらかしに過ぎないという見方もできるし、数学者が主人公ではあるが決して数学的な訳ではなく(どちらかというと文学的な数学だな)、時に冗長で退屈な部分もあるから、かなり読み手を選ぶのではないかな。
 特に、官能描写が結構多いのは、女性には不評かもしれない。基本的に男目線の描写だし。まあ、渡辺淳一の「失楽園」とかを許せるならそこそこ楽しめると思うけど。

 とうの昔に読んですっかり内容を忘れてしまっていたり、全然読んでなかったりするする古今東西の様々な書籍のが登場して、その断片が進行中の物語とリンクして紹介されるので、「ふ~ん、そんなのあったのか」っていう楽しみはある。☆☆☆。

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