『ハメット』

 今回の通勤電車内読書は、ジョー・ゴアズ著「ハメット」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
 前回の「硝子の暗殺者」でジョー・ゴアズをちょっと見直したので、映画化もされたという本作を手に取ってみた次第。

 主人公は、ダシール・ハメット。ハメットと言えば、言わずと知れたアメリカのミステリ作家(1984~1961)で、代表作には「血の収穫」や「マルタの鷹」などがある。
 その実在したハメットは、アメリカ屈指の探偵会社であるピンカートン探偵社の探偵として働いていたこともあって、本作では、彼の経歴に1920年代後半の社会情勢や舞台となっているサンフランシスコの風俗などをうまく織り込んで、なかなか面白いハードボイルド・ミステリに仕立て上げている。

 ピンカートン探偵社を辞め、サンフランシスコで作家として生計を立てているダシール・ハメットの元へ、ピンカートン時代の同僚ヴィクター・アトキンスが訪ねてくる。
 腐敗した市の警察組織を立て直すために作られた浄化委員会に捜査員として雇われそうなので、その仕事を手伝って欲しいという。
 しかし、数日後にそのアトキンスが、何者かに撲殺された死体で発見されてしまう。
 アトキンスの後釜として浄化委員会に雇われたハメットは、同じくピンカートン社の探偵だったジミー・ライトらの助力を得て、アトキンスを殺した犯人を捜し始める。
 鍵を握るのは、アトキンスが話を聞こうとしていた娼家の女主人モリー・ファーと、その小間使いをしていた中国娘のクリスタル・タム。
 女の姿を追ううちに、ハメットはサンフランシスコの暗部に触れることになり、意外な黒幕の存在と復讐劇が明らかになる。

 ミステリとしてはもとより、虚実をうまくミックスして当時の時代感・空気感をよく表しているとともに、作品の構成や記述に悩む作家としてのハメットの苦悩までも描き出しているところなど、なかなかよく書けている。☆☆☆☆。

 蛇足だが、本作を原作とした映画『ハメット』(1982年公開、日本公開は1985年)は、ヴィム・ヴェンダース監督で製作総指揮がフランシス・フォード・コッポラという豪華さだが、私は未見。「興行的には振るわなかった。」とウィキペディアには記述あるが、本作を読んだ後なら観たくなるな。

Translate »